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アイアンマン世界選手権遠征記⑥ーふたつの10時間

      2017/11/30

前回はこちら

10/14 7:05

プロ男子、プロ女子に続いて本日3回目の号砲。1400人の選手が一斉に沖へ向かう。

 

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スイム(57:43)

この大会ではバトルが続く。おそらく、岸に戻ってくるまでずっと。国内ロングや他のアイアンマンだと、一斉スタートでも、500mくらい泳ぐと集団が落ち着く。1000mも泳げば見事に一列になって泳いでいることが多い。しかしここでは、自分の泳力はまさにボリュームゾーンあたりだ。気がつけば左右の身動きがとれなくなっている。

 

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予想通り、折り返して岸に戻るまで大なり小なりの集団で泳ぐ。しかしスイムアップすると希望的観測通りの57分台。テンションが上がる。

 

 

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バイク(5:10:12)

ユニフォームの背面と中殿筋あたりのポケットにパワージェルとトップスピードを詰め込む。入らない分はランポケに入れて、ゼッケンベルトような位置につける。

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よーく見ると腰あたりにベルト。パワージェルとトップスピードが入ったランポケ。

5時間前後かと思っていたけど、少し時間がかかってしまった。90km通過が2時間28分、復路では向かい風に吹かれるとわかっていたので、この時点で5時間切りは難しいと察する。

https://connect.garmin.com/modern/activity/2161788964

パワーメーターをレースで使うことができたのは、実質的に今回が初めてだった。宮古島では計器トラブルがあり、皆生ではメカトラブルでペース配分どころではなくなってしまった。

初めて実戦投入した感想としては、レースにおけるパワーメーターは非常に強力だ。使い方はとても簡単で、標準パワーが200wになるように足を回すだけだ。瞬間パワーを表示させてもいいし、数字の変動を抑えるために3秒の平均パワーを選んでもいい。

(ラップ内の標準パワーが200wなら、その間ずっと200wで漕いでいたのと同じ負荷が身体にかかっていると解釈する。平均パワーは単純な算術平均)

何が便利かというと、基本的に出力だけ見ていればいいという点だ。もし出力が見られなかったとすると、心拍数や速度を見て、風の方向を確認して、その他の状況も鑑みて、実際のパフォーマンスと自分の主観にどれだけのズレがあるのか考えなくてはいけない。こういった面倒事を全て解消してくれるのがパワーメーターだ。

 

レースのパフォーマンス評価もしやすい。後からデータを振り返ってみると、前半をもっと抑えなくてはいけないようだ。相当数の選手に抜かれた気がするけど、もっとタラタラ漕いでいいらしい。後半30~40kmで、心拍は維持されているのに出力が出なくなってしまっている。リザルトとすり合わせると、この区間で前の選手とタイム差が生まれている。もう1ランクレベルを上げるなら、ターゲットはここだと思う。

 

順番が前後してしまうが、レースペースの出力は「FTP×係数(0.6~0.8)」で算出する。自分の場合なら、FTP:300w-×0.7≒200wという計算式だ。FTPは春先に計測してそれ以降は自動計算任せ、体感としては少し落ちていると感じたので、少し保険をかけた数字にしてある。ちなみにFTPテストについてはこちらを参照。

 

プロカテゴリーの「スーパーバイカー」と呼ばれる選手は、係数が0.8前後になるらしい。恐ろしい。

http://www.triathlete.com/2017/11/bike/analysis-lionel-sanders-kona-power-file_308086

総合2位、バイクラップ2位のサンダースのデータ。折り返しに向かうまでの2時間では係数0.81。「バイクラップを取る選手の目安0.8をわずかながらに越える数値」らしい。風向きもあるにしても、バイクレコードが更新されたのも納得。

 

 

ラン(3:40:02)

この半年で一番強化してきたつもりのパート。結局ここで4時間もかけるわけにはいかないので、バイクの終盤はランに向けての準備時間とする。ランポケに隠してあったパワージェルとトップスピードを飲み、出力を抑える。

 

いつもは920XTを付けて走るが、今回はVivoactiveHRでデータを記録した。一つ目の理由は、スイムでの接触がかなり多いと思ったので、大きめのウォッチは控えたほうがいいと思ったこと。無駄なバトルは避けたいので、バトルを誘発する可能性を極力下げたかった。T2に920XTwo置いておいておくことも考えたけど、付け忘れてスタートしてしまったり、着替え中に落としてなくしてしまう可能性もあると思った。二つ目は、光学式センサーでも満足なデータが取れると思ったこと。インターバル練習のように、心拍数の変動が大きい場面においては、心拍ベルトを使用したほうがいいと思っている。しかし今回のレースは基本的に一定ペースで展開する(はず)なので、光学式の心拍計でも十分なパフォーマンスが得られると思った。三つ目は自分のパフォーマンスに対する信頼で、大きいウォッチで逐一情報を確認せずとも、ある程度主観と実績値が一致すると感じていた。

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T2でリアラインソックスを履き、リアラインインソール入りのCloudflowのヒモを締めて、最後の42kmに挑む。直前でCloudsurferからCloudflowにシューズを替えたのは正解だった。足が残っている。

序盤は思いの外、足が軽い。2年前と同じだ。エイドで止まって身体を冷やしたことを考慮すると、およそ4分30秒ペースで進んでいく。自分レベルのロングのランに関しては、ペース配分というものがあまり意味をなさないと思っている。前半のペースを抑えていても、後半に貯金を吐き出せるとは限らない。だから走れるうちに走っておく。

https://connect.garmin.com/modern/activity/2113251941

16kmを過ぎ、7%程度の激坂を越え、エナジーラボに向かうあたりから、徐々にペースが落ちていくのを感じる。この直後くらいからストライドが短くなっているらしい。

30kmを超えて折り返し、ペースは落ちているし足が前に出なくもなっているのだが、今シーズンで一番まともに走れている。チラッとランウォッチに目を落として計算すると、このまま踏ん張れば10時間をギリギリ切れるらしい。

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長かった1日もようやく一段落。最後は9時間57分台の表示を眺めながらゴール。

 

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レース後に食べるピザはこんなにうまい。ピザを発明した人は偉大だ。

 

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今シーズンは苦しいレースが続いた。宮古ではバイク残り30kmくらいからレースが一刻も早く終わることを願い続けたし、皆生ではスタートしてからわずか90分でレースが終わってしまった。

意気消沈してレース報告に行く度「少年よ、大いに悩みたまえ!」くらいの心の広さを持って接してくれる方や、トレーナーとして「次のレースではどうするか」を一緒に考えてくれた谷本先生がいて、慌てふためくことなくハワイに向けての準備を積み重ねることができた。

思い返してみれば、「慌てふためくことなく」というのが大事だった。例えば宮古島で失敗したからといって、週あたりトレーニング時間を2倍にする方針に切り替えていたら、間違いなく身体に不具合が出てしまっていただろう。生活上の効用も落ちてしまっていただろう。

トレーニング時間に関していうなら、自分には週あたり10~13時間が適切な水準だと思ってやってきた。回復のスピードを考えると練習量には適切な水準があるはずと考え、オフシーズンの実験の結果、週あたり13時間が上限と割り出された。

1日あたり平均2時間未満の練習時間(週末と平日で傾斜させて平日は1時間くらい)なら、学生のうちは間違いなく安定して時間を捻出できる。社会人になってからもある程度の水準で競技を続けられる可能性があると思っている。

 

「少年よ、大いに悩みたまえ!」タイプの方に恵まれているおかげで、こういった基本的な方針にコミットすることができて、その結果としてシーズンの最後にいいレースができた。

 

自分の中で、このレースの結果は単なる「単なるいいレース」とどまっていない。週10時間程度の短時間高強度のトレーニングでも、ロングのタフなコースである程度のタイムを出せることの証明だと思っている。

 

 

23:30

エースやぽんさん、谷本先生と合流した後は、長い一日の後半戦。フィニッシュラインに続くカーペットが始まるあたりで応援する。強面で現れるおじいちゃんが、フィニッシュゲートをその目で確認して、報われたような笑顔を浮かべる地点だ。

アイアンマンのコンセプト”Every finisher is a winner”を実感できる時間である。

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25:00

帰宅。アイシングしながらピザとビールでパーティーが始まる。ビールを発明した人も偉大だな。

 

 

長い1日が終わりました。長い遠征記も、次回が最終回です。

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